みなさんこんにちは。リワインドスタッフの岩倉玲です。
岩倉が競技生活の中で経験してきた大会参加に関するコツや、フリースタイル作成に関するノウハウをブログ形式で紹介する「れいレポ」。
第4回は「演技中のヨーヨー交換に関するコツと考察」です。
予備ヨーヨーって?

大会の動画で、ステージに上がってきた選手が足元にヨーヨーを置いてる姿を見たことはありませんか?
フリースタイル競技では、披露されるトリックの難易度が評価対象のひとつです。選手は限られた演技時間の中、多数のハイレベルなトリックを詰め込み、技術点を果敢に獲得しにいきます。10年前、20年前と比較すると、技のリスク・密度は比べ物にならないくらい上昇しています。
しかし当然難しいトリックに挑戦するわけですから、時には失敗し、ヨーヨーが使用不可能な状況に陥ることも。
1A部門あればストリングが中で詰まってしまう、2A,3A部門ならヨーヨー同士のストリングが絡まる、4A,5A部門ならヨーヨーが吹っ飛んでしまう、等の可能性が常に隣り合わせです。
その際、選手は予備のヨーヨーに交換することができます。特に持ち込み個数の制限等はありませんが、3~4セットくらいを持ち込む選手が多い印象です。
交換がもたらす4大ダメージ
ヨーヨーを交換することで演技を続行できますが、フリースタイル競技において、選手自身の演技、最終的な得点に対し様々な影響・ペナルティがあります。
①最終得点からの大幅な減点
(厳密には交換だけではありませんが)ヨーヨーを交換すると、最終得点から減点-3を受けてしまいます。
しかもヨーヨー1個につきなので、2Aや3A、4Aのソロハムスタイルで2個ヨーヨーを交換となると合計-6点の減点となります。
※詳細:追加減点(Major Deductions: MD)放棄(減点3)『フリースタイル競技 演技ルール・審査基準 (2019-2023)』
http://www.jyyf.org/fsrule
上位層であれば0.1ポイント差を争う現代ヨーヨー競技では、このマイナスポイントは大変な痛手です。
決勝のフリースタイル評価点における各項目の満点が5点。2個交換すれば、ある項目で満点を取ってもそれが全て吹き飛んでしまうダメージと考えると、そのインパクトが伝わるかと思います。
加えて、交換に対し具体的なペナルティとして現れる上記特別減点以外にも、以下の3つのダメージが交換には潜んでいると個人的には考えます。
②実施予定トリックの減少
⇒ヨーヨーを交換している時間は当然トリックを行う事ができません。それらのトリックで本来獲得できたはずの加点が0になってしまうのは大きな痛手です。場合によっては一番自信のあるトリックを披露するはずたったパート、一番トリック密度が高いパートが、丸々抜けてしまうことも。
③エクスキューション (EXE) 評価点EXEへの影響
⇒フリースタイル評価点におけるエクスキューション(EXE)は演技中のミスの少なさ、演技自体の完成度を評価する項目です(ざっくり)。往々にして交換に至るミスは、この項目にも大きく影響します。
④メンタル面への影響
⇒自分も大会で交換した経験がありますが、普通に凹みます。特に演技序盤で交換してしまう場合、減点分を取り返そうという焦り加わり、それがきっかけで残りの演技も崩れてしまう選手も少なくありません。

交換をよりスムーズに行う対策とヒント
①交換の練習を十分にしておく
⇒普段の練習時から、ヨーヨーが絡まる・吹っ飛んでしまって交換が必須な状況になったとしても、交換を含め、演技を止めず最後まで通し切る練習を心がけましょう。トリックと同じで、練習で体に馴染んでいない動きや習慣は、本番でパッとすぐにはできません。また普段の練習から交換の経験を何度もしている状態であれば、本番で交換が発生した時もメンタル的にパニックにならず、演技を立て直すことができる可能性は高くなります。(それでも勿論ショックですが、引きずる方がデメリットが大きいので割り切って最後まで演じ切りましょう。)
②予備ヨーヨーの設置方法を決めておく
⇒ヨーヨーはジャグリングのボール等とは違い、手に持ったその瞬間が交換成立/即時トリックに以降できるわけではありません。フィンガホールに指を通し、キュッとしめてようやく準備完了です。時間にすれば数秒の出来事ですが、この時間が4秒になるか、3秒になるかは180秒(予選ならば60秒)という競技時間においては大きな差です。フィンガーホールの配置や、予備ヨーヨーを置く形も普段から決めておくと万が一の時にすぐ対応できます。



フィンガーホールの置き方も様々。最も素早くスムーズに交換できる設置方法を予め検証しておきましょう。
③予備ヨーヨーの設置位置を決める(演技内容によって調整する)
⇒ステージ前方に置くのが一番メジャーな気がしますが、演技エリア内/各大会のルールが定めるエリア内でれあば置く場所も特に制限はありません。予定しているステージの使い方に合わせ、交換時に最短で対応できる配置を予め決めておく事も大事です。
以下、演技内容に合わせて設置個所を調整する例を載せます。

ステージ前方を横幅いっぱいに使う演技であれば、左右ステージ端と中央に配置。
客席から見てステージ左側で交換が発生した場合、①ではなく③のヨーヨーを交換する事によって時間短縮。

比較的ステージ中央を中心に前後を使う演技の場合。予備はステージ前方ではなく、後方にも設置。
実際に僕は2015年全国大会ではほぼこの配置にしていました。照明の当たり具合を鑑み、演技前半はステージ前方で1個のオフストリングトリック、後半はステージ後方でソロハムトリックを行う予定だった為。
また大まかな位置関係(横、前方、後方)に加え、演技スタート時からどのくらいの距離なのかも把握しておきましょう。近すぎると演技の邪魔ですし、遠すぎると交換時の時間ロスに繋がります。(一時期、メジャーで各設置位置までの長さを図ったりしていましたが、本番ではヨーヨー以外の持ち込みが基本NGなのでやめました。)「大体自分から3歩分、前方に置く」程度でも決めておくと良いかもしれません。
注意点
予備のヨーヨー設置はなるべく時間をかけず、スムーズに行いましょう。大会運営は往々にしてタイトなスケジュールで進行しています。
予備ヨーヨー設置の話に限ったことではありませんが、大会進行や、他の選手の迷惑にならないように心がけましょう。
ヨーヨーバッグや、予め自分で用意したトレイにヨーヨーを置いた状態で準備しておき、それを持ち込むことで時間短縮になるかもしれません。
(持ち込み可否については各大会のルールを参照して下さい)


まとめ
- 予備ヨーヨーは難易度/リスクが勝負の一要素である競技ヨーヨーにおいて、不測の事態に対応するためのもの。
- 競技会では交換しても演技の続行が可能だが、得点等の面で大きなダメージが発生する。
- 練習、フリースタイルのプランニング段階で交換を想定した準備も含めておく事で、ダメージを最小限にする。
余談
- あまり最近は見かけませんが、90年代後半はポケットや腰のホルダーに予備のヨーヨーを準備しておく選手も居ました。フィンガーホールが潰れてしまったり、プレイの邪魔になるデメリットはありますが、床に置くよりはスマートなので、パフォーマンスではこちら方が好まれるかもしれません。
- 「交換なんてせんわい!」という事で予備ヨーヨー無しで大きな大会に出場する選手も居ました。
- 逆に20個程ヨーヨーをピラミッド状に積み上げて持ち込む選手も。
- 現在のルールでは禁止されていますが、予備のヨーヨーが全て絡まってしまった選手に対し、観客席にいた友人がヨーヨーをステージに投げ込み、無事演技続行できた、というような出来事もありました。