スレイプニル小話 (2012/07/22 城戸慎也)

お久しぶりです、リワインドの城戸慎也です。
僕のシグネチャーモデルである「スレイプニル」が、2009年12月10日に正式リリースして、2年半以上経ちました。カラーバリエーション諸々も豊富になり、ロゴも新しくなり。おかげさまで、ヨーヨーリクリエーションのラインナップ中、現在までのトップセールスモデルとなっています。昨年には姉妹機のグレイプニルも登場し、両機とも人気モデルとなりました。愛用してくださっている皆様に、心から御礼申し上げます。

そんなスレイプニルですが、高性能さはもちろんのこと、実はさまざまな「初めて」に挑戦していたり、ちょっとした逸話があったり、YYRの中でも、いろいろとバックグラウンドのあるヨーヨーでもあります。今では当たり前に認識されているもの、YYRというメーカー自身をさらに有名にしたこと、そしてヨーヨー史に転機をもたらしたヨーヨーであること。今回は、そんな私のシグネチャーモデルの小話たちです。
もっとも、前回のコラム通り、私は大まかなサイズをオーダーしただけで、その他細かい点は何もしていません。せめて伝達役として、スレイプニルのことをもっと広めていければと思います。

■ロゴ(アートワーク・アイコン)が入ったのは、スレイプニルが最初。
現在発売されているスレイプニルには、その名の通りのスレイプニルという八本足の軍馬(北欧神話に登場する神獣)のアイコンが描かれています。ロゴが入るということ自体、実はこの機種が(ほぼ同時に)初めてなんです。また、その前は英文字による名前・メーカー等の表記のみでしたが、それもスレイプニルが最初です。このロゴ自体はオーナー(要するに僕の兄ですね)がデザインを担当したもの、というのはあまり有名じゃない話。スレイプニルのネーミングも、もちろんこの神獣から名付けられました。スレイプニルは英語の「Slip」の語源ともいわれ、滑空するという意味があるそうです。スレイプニルを作る際、回転力より動かしやすさを重視したことが由来しています。
ちなみに、このスレイプニルという名前。今でこそしっくりくる名前で、理由もありますが、名前を付ける際はいろいろ悩み、結構時間がかかりました。

【写真1:スレイプニル(旧ロゴ)】意外と人気な英文字旧ロゴ。このカラーより前のものはパッドサイズも違ったんですよね。何もかも懐かしい。
※旧ロゴ(英文字のみ)の再生産予定はありません。
※ファイナルファンタジーではありません。
※ブラウザでもありません。

■YYRラインナップ中、超々ジュラルミンを採用したのは、スレイプニルが最初。
商品ページにも書かれているので、御存知の方も多いかと思います。スレイプニルには、超々ジュラルミンという、アルミニウムの中でもとくに頑丈で、軽い素材で作られています。航空機の機体にも使われており、その性能は折り紙つきといったところ。設計を極限まで突き詰めるために辿り着いた素材です。それまでは、超々ジュラルミンを使用しているヨーヨーはほぼ皆無、もしかしたら0だったかもしれません。おそらくですが、現代の競技ヨーヨーという世界で、この超々ジュラルミンという素材をポピュラーにしたのは、スレイプニルと、ほぼ同時期に作られていたメシアなのではないかと思っています。
アルマイト(色付けと錆止めの加工方法の一種)が難しく、精度を出すのも困難なのですが、なによりも性能を追い求めた結果たどり着いた、YYRらしい素材ともいえます。

【写真2:スレイプニル(RAW)】RAWシルバーの光沢の美しさは相当なものです。これはこれで。あと、わずかに使用感が違いますね。それぞれ試す価値アリ。
※色がつきにくかったり、切削加工自体も難しかったり、本当に大変なんです。
※でもその頑丈さのおかげで、本当にかなり長持ちします。
※実際僕も、年単位で同じ機体を使い回してます。

■初のシンガポール人アジアチャンピオン、クリストファー・チア選手が使用。
2011年のアジア大会、1A部門で優勝したクリストファー・チア選手が使用してくれたのも、スレイプニルでした。スピードあり、アクロバティックあり、ホリゾンタルありな彼のスタイルにガッチリはまっていました。


■YYRラインナップ中、別ロゴ・別シグネチャーを載せたのは、スレイプニルが最初。

シグネチャーヨーヨーの別ロゴ・別シグネチャーバージョンが作られたのは、スレイプニルが最初なんですね。(ヨーヨーファクトリーのスーパーノヴァやジェネシスなどに似ています)。そのシグネチャーは、2011年アジアチャンピオンとなったクリストファー・チア選手。通称「TAKE THAT」バージョンのように呼ばれるあのバージョンは、僕自身も個人的に集め、全色コンプリートしてます。そのくらいカッコイイです。

【写真4:スレイプニル(クリストファー・チア)】クリストファー・チアの名前と、タイトルが刻まれています。TAKE THATの文字が本当にカッコイイ。
※スレイプニルはTAKE THAT含め、全部持ってます。
※プロト含めたら、そろそろ20個。
※目指せ100パターン。

■YYRラインナップ中、ステップストレートを採用したのは、スレイプニルが最初。
スレイプニル以前にリリースされていたスターダスト・スターゲイザー(ファーストロット)は、形状がステップストレートではなく、ステップラウンド。ほんのわずかに丸みを帯びてはいるものの、ステップストレートと呼べる形状を採用したのは、スレイプニルが初めてです。もともと、設計上はステップをつけた方が良いこと、僕自身がストレート形状のヨーヨーが好きであることを汲んでくれた結果生まれたシェイプでした。

【写真5:スレイプニル】このシェイプのヨーヨーなら問答無用で好きというくらいには、僕の感覚には刷り込まれております。
■YYRラインナップ中、「写真をボディに刻印した」のは、スレイプニルが最初。
通称「顔プニル」を覚えてる方は少なくないかと思います。なんかもういろいろとスゴくて、インパクトもスゴかったあのモデルですが、YYR史上初めて「写真をボディに刻印した」めずらしいモデルなんです。これは他メーカーを含めても非常にめずらしく、私もこれ以外には、同じYYRのミスターブッチャーくらいしか知りません。しかもあとあと聞いた話ですと、なんとこの「顔プニル」を、お守りのような感覚で買ったという方も居らっしゃるとか。スゴく嬉しい半面、本当に良かったんですかとちょっと複雑な気持ちにも。いや本当に嬉しいんですけど。

【写真6:スレイプニル(城戸慎也)】再生産はありません。繰り返す、再生産はありません。
※ご利益の有無は保証できません。
※幸せな顔してますねぇ。
※再生産はありません。
※太ったなぁ。

■改良版が製作予定だったのに、性能的に満足いかず、生産中止に。
実はYYRは一瞬だけ「スレイプニル2(仮名)」を製作している瞬間がありました。スレイプニルの改良版ということで、プロトタイプも製作し、理論上さらに扱いやすくなったはず……。と思いきや、思った通りの効果がなぜか出ず。何度かクリストファーと僕でテストをし、プロトタイプも何度か作りなおされましたが、結局原因不明で、設計は一度中止となりました。
しかしまー何かに守られているのか、すでに行くところまで行ってしまったのかわかりませんが。なんとも不思議なヨーヨーです。もしかすると、いつの間にやら、改良しようがないヨーヨーになってしまっているのかもしれません。僕はスレイプニルのことを時々「黄金比」と比喩することがあるんですが、そのゆえんが、このエピソードだったりします。しかしこの調子でもし改良版が生まれたとしたら、それはとんでもないクオリティのヨーヨーとなっているのだろうと思います。
※今現在も、製作設計は中断されたままです。
※てか、どうすればこれ以上になるのか。
※教えて、おじいさん。

……というわけで、お楽しみいただけましたでしょうか。たぶん、どんなヨーヨーにもこういったエピソードがあります。このスレイプニルのエピソードは、そんな中の一部に過ぎません。
前のコラムでも書いたかもわかりませんが、シグネチャーモデルというものを持って以来、それ以前とは明らかに意識が変わったことがあります。それは1個1個のヨーヨーに対する「見方」です。変な話なのですが、シグネチャーモデルというのは、メーカーとの間に生まれた “子ども” のようなもので、我が子がどんな風に見られているのか、どんな風に一生を遂げるのか(超大げさ)、ものスゴく気になるのです。それはきっとどのヨーヨーの作り手も同じで、全部のヨーヨーに、そういった “親” のような存在がいるのは確かです。苦労して、何かしらを痛めて、子どもたちを産んでおります。そんなメーカーの方々のバックグラウンドを想像すると、ヨーヨーに対する意識がちょっと変わったりして、面白いかもしれません。
ですので、どんなヨーヨーでも、どんなプレイヤーの方でも、まず1個のヨーヨーを大切にしてもらい、ぜひ壊すまで全力で使ってもらったり、もしくは全力で飾ってもらったり。とにかく何らかの形で愛用されることを切に願います。もちろんスレイプニルも。

それでは、またどこかのコラムやらなんやらで!

2012/07/22 城戸慎也

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